冷酷上司の甘いささやき
「今日はすみませんでした。せっかく来てくれたのに、コータが戸田さんにしつこくて」

日野さんは、お酒で火照った頬を私に向けながら、申しわけなさそうにそう言った。
今日の合コンの女子側の幹事は日野さんだったのだけれど、男子側の幹事がさっきのコータくんという人で。
日野さんとコータくんは大学時代のサークル仲間らしく、今日の合コンはそんなふたりがいっしょにセッティングしたものらしい。


「全然大丈夫だよ。そんなこと気にしないで。それより、誘ってくれてありがとう」

「楽しかったですか?」

「楽しかった。いろんな人と話せたし」

私がそう言うと、日野さんはよかった、と答えて小さく笑った。

せっかく好意で誘ってくれたのに、疲れた、なんて言えるはずなかった。
合コンの最中も、疲れとかは顔には出ていなかったはず。大丈夫、楽しいフリ、できてたよね……?


「私、ほんとに彼氏欲しいんですよ」

日野さんは前を向きながら、酔っているとは思えないほどのとても真剣な表情で言った。

日野さんは、いつも酔っ払うとこう言う。いや、酔ってなくてもよく言ってるけど。
この春に社会人二年目になったばかりの彼女は、仕事が忙しくて社会人になってからはずっと彼氏がいないらしい。

そして、彼女は働くことも好きじゃないらしい。早く寿退社して専業主婦になりたいそうだ。


「私、早く寿退社して専業主婦になりたいんです」

……ほらね。
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