冷酷上司の甘いささやき
だけど、課長は私の質問にあっさりと答えてくれた。

「彼女にあんまり興味なくて、ほったらかしにしてたのが原因」

「ほったらかし?」

「彼女って言っても、一方的に押し切られて付き合いだしたって感じで、とくに恋愛感情なかったんだよな。だから俺からデートとかに誘ったこと一回もなかったし、それに対して向こうがキレて、今日仕事終わったあと呼び出されて、こんな時間までずっと不満言われ続けてた」

「そ、そうなんですか……」

「ずっとって言っても二時間くらいだけど、もし戸田さんの残業がなくて十九時とかにさっきの彼女と会ってたら、五時間くらい不満言われてた可能性もあったかも」

「は、はは……?」

え、なにここ、笑うとこ? 私はどういう反応をすればいい?


と、困っていると。



「でさ」

「は、はい」

「夜遅くて危ないからって理由で戸田さんのこと駅まで送ったつもりだったんだけど、なんでこんな時間まで外にいるわけ?」

「あっ」

私は手に持っていたパンフレットと缶ビールの入ったスーパーの袋を慌てて背中に隠した。
けど、すでにしっかり見られてたみたいで。

「ひとり映画にひとりビールとか、戸田さんって、会社ではいつも誰かとつるんでるようなイメージがあったけど、意外な趣味してんだな」

と、言われてしまった。


私は慌てて課長に頭を下げる。

「す、すみません! せっかく送っていただいたのに、その、疲れていて、つい趣味の映画を……! ビ、ビールも好きで、その!」
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