冷酷上司の甘いささやき
「テラーは日野ちゃんにやってもらうから、戸田ちゃんは日野ちゃんと仕事引き継ぎしてから席交代して」

「え」

「よろしくぅ~」

そう言って次長は自分の席へと戻っていった。あっさりしている……。


私、窓口じゃなくなるんだぁ……結構好きだったんだけどな。ひとり好きな私だけど、仕事でお客さんと接するのはべつにニガテでもなかったし、嫌でもなかった。


でも、決まってしまったものは仕方ない。新人の指導、しっかりやらなきゃ。きちんと仕事を教えて、注意するべき場面ではしっかりと注意して、叱るべき場面ではしっかりと叱って……



できるかな、私。指導係。
任せてくれたのはありがたいけど……私の性格じゃ、もしかしてかなり難しいんじゃ……。

そう思いながらも、そこからの一週間、私は日野さんと仕事の引き継ぎをし合い、新入社員の受け入れ体制に入った。



一週間後。

「今日からこの支店に配属されました、阿部 奈々香(あべ ななか)です。よろしくお願いします」

朝礼の時間に、社員全員の前でそうあいさつした新入社員の阿部さんは、少し茶色のかかったポニーテールを揺らしながらペコッと頭を下げた。
小柄で細身で、男性から見たら”守ってあげたくなる系女子”なのかな、なんて思った。


初日から、私はさっそく阿部さんへの指導を始める。阿部さんにやってもらうのは、まずは預金口座の作成など。
日野さんから引き継いだ振り込み関係の仕事をやりながら阿部さんへの指導に入るからかなり大変になるけど、がんばらなくちゃ。
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