冷酷上司の甘いささやき
阿部さんを駅まで送り、家に帰ってきてから猛烈に後悔する。

ほんとバカ、ほんとバカ、私!! 今日言えなかったらいったいいつ言えるの!?


自分のこの性格が、改めて本当に嫌になる。

それと同時に、私はなんとなく、家にいながら顔を右側に向けた。さっき、課長が出てきたお部屋のある方向へ。


課長ももう、帰ったのかな。それともあのお部屋に泊まっていくのかな。あの女性はもう彼女じゃないみたいだし、泊まってはいかないか。いや、元カノってわけだし、泊まりもありえなくはないか。


……今、こんなことを考えている場合じゃないということはじゅうぶんわかっていたけれど、先日のあの夜の、普段職場にいる課長とはなんだか違う、雰囲気のやさしい、プライベートな彼の姿を知るのは、職場の中では私だけだと思っていた。

でも今日、阿部さんも、ほんの一瞬だけど課長のプライベートに触れた。阿部さんはあの状況からじゃ”課長はほんとはやさしい人”っていうのはわからなかったと思うけど。

それでも。”プライベートの課長”を知る人が私のほかにもうひとり増えて、それがなぜか、少し寂しいような、でもなんでそんなことを思うのかわからない、不思議な感情にかられた……。



……そんなことを考えつつも、最終的にはやっぱり、阿部さんに本題を切り出せなかったという後悔に陥り、頭を抱えながら浅い眠りについた。
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