冷酷上司の甘いささやき
でも、そこからさらに十分後。阿部さんがトイレに立っている時だった。


「戸田さん、なんか大変なことになってるみたいです」

と、日野さんが席を立って、私のとこまでやってくる。


「ど、どうしたの。ていうか窓口空けちゃダメだよ」

「今お客さんいないんで。それより、今LINE見たら、同期から変なメッセージ来てて」

業務中に私用で携帯見ちゃダメ、という注意を私が言い出せるよりも先に、日野さんは話を続ける。


「なんか、阿部さんが昨日、twitterとかLINEのタイムラインとかに、変なこと書いたみたいで」

「変なこと?」

「はい。詳しいことはよくわからないんですけど、遠山課長がプライベートで女を泣かせてたとか、その人を自殺未遂に追い込んでいた、とか」

「え!?」

日野さんの言葉に、私は目を丸くする。
日野さんによると、阿部さんが書き込んだSNSの内容を読んだ、別の支店で働く阿部さんの同期の子が、自分の職場の先輩にそれを話し、そこからだんだんと話が広がっている、とのことだった。


さっき、課長が部長に会議室に呼ばれていた。もしかして、そのこと……?



「と、とにかくそれは誤解だから!」

「戸田さん、なにか知ってるんですか?」

「いろいろあって、昨日の夜、私も阿部さんと同じ現場にいたんだよ。でも、ほんとにそういうんじゃなかったから」

日野さんにそんな説明をしていると、阿部さんが席へと戻ってきた。
昨日のこと、誰にも言っちゃダメだよって口止めしたのに。ていうか、口止めしなくても誰にも話さないのが普通なのに。
これは絶対注意しなきゃ。はっきり注意しなきゃ。

そう思った瞬間、会議室の戸が開き、中なら部長と課長が出てきた。
そして、それとほぼ同時に、
「阿部ー、戸田ー、ちょっと」
と、私たちは部長席へと呼ばれた。
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