冷酷上司の甘いささやき
部長は部長席に座り、その前に私と阿部さん、そして課長が並ぶ。
この時点で、私と阿部さんが呼ばれた理由は明らかだった。


ただ、怒ったときや機嫌の悪いときにはその感情が露骨に表に出るタイプの部長の表情は、そこまでピリピリしたものではなく、それどころか少し笑っているくらいだったので、事態はそこまで大ごとじゃないのかな……と思い、そこは少し安心した。
となりに立つ課長をちら、と見ればいつもの無表情だったので、課長の心情はまったくわからなかったけれど。


部長はやさしめの口調で、阿部さんに話しかける。

「昨日、ネットになにか書き込みした?」

阿部さんは、「SNSですか? いろいろ書きましたけど」と、さらっと答える。
いろいろ、ということはSNSが趣味なのかもしれない。そして、今のこの状況も、まるでわかっていないのかもしれない、とも彼女の口調から思った……。


部長は続ける。

「遠山課長について、なにか書き込んだ?」

「あ、はい」

「女を泣かせてたとか、自殺未遂とか?」

「はい! そうなんですよー! 超衝撃的でした! 誰かに伝えたくて、いっぱい書き込みしました!」

阿部さんのとんでもない発言に、私は頭がくらっとした。


「あ、阿部さん! あれは誰にも言っちゃダメって言ったでしょう」

「えー、いいじゃないですか、事実だし。誰かに言いたかったんですよ。あ、大丈夫ですよ? twitterは鍵アカなので、知ってる人しか見られないです! そのくらい、ちゃんと考えてますよ!」
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