冷酷上司の甘いささやき
くらっとした、を通り越して、頭痛がした。こ、これがジェネレーションギャップなの?
違う、常識的な問題!


「阿部さん、その内容が、うちの銀行中に広まっちゃってるんだよ」

部長が話を再開する。

「まぁ、念のため、あくまで念のために今しがた課長に話を聞いたら事実無根だということはすぐにわかったし、ほかの支店の人たちも、真面目な遠山課長に限ってそれはないとわかってくれてると思う。
ただ、ウワサを真に受ける人も出てくる可能性もあったよね。それでなくても、もう学生じゃなくて社会人なんだから、そういうウワサ話の類いをいちいちネットに書き込むのはやめなさい」

部長の口調も表情もやさしげなものだったけど、そのせいか、阿部さんは部長に言い返した。

「社会人になったらSNSやっちゃいけないんですか?」

「そうは言ってない。ウワサ話を書き込むのをやめろって話」

「ウワサじゃありません。私、実際に見たんですもん。それに、私は自殺未遂って直接書いたわけじゃありませんよ。私は、その時の状況を正確に書き込んだだけです。その話が広がるうちに、自殺未遂っていう大げさなワードが出てきちゃっただけです」

……あまりにも無責任な阿部さんの発言。
課長のことを『怖い』と敬遠しがちな社員は、ほかの支店で働く人たちの中にもいるかもしれない。そういう人たちの中には、阿部さんの広げたウワサ話を信じてしまう人もいるかもしれない。

プライベートな課長のことは私だけが知ればいい、そんなような思いも確かにさっき感じていたけど……今は、プライベートな課長まで周囲から誤解されるのは嫌だと思った。
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