冷酷上司の甘いささやき
「戸田さん」

となりから課長に名前を呼ばれて、思わず体がビクッと震えた。どうしよう、課長になに言われるんだろう。


「す、すみませんでした! ちょ、ちょっとトイレで顔洗ってきます!」

課長の言葉を聞くのが怖くて、私はその場から逃げるように立ち去ってしまった。
自分は後輩の子にあんな怒り方をしてしまったのに、自分は課長から怒られるかもしれないのが怖くて逃げるなんて、最低だ。


……このあと、部長に叱られるであろうことについては怖くない。私が悪いんだから、私もしっかりと怒られなきゃいけない。

と思うのに、課長に怒られることは、なぜかすごく悲しく感じてしまって。
なんでだろう、最近の私、課長に対していろんなことを考えてる。



トイレで顔洗ってきますとは言ったものの、メイクもしてるし、実際は洗えず、意味もなく手だけ洗って、髪を少し整えて、気持ちを落ち着かせた。


ずっと自分の席を離れているわけにもいかないし、すぐに営業室に戻ったけど、戻ったのとほぼ同時に、営業室の入り口のすぐ横にある会議室の戸が開いた。
そして、中から部長と、ハンカチで顔を押さえながら泣きじゃくる阿部さんが出てきてしまった。

そして部長に、「ちょうどよかった。次、お前から話聞くから、会議室の中で待ってて」と言われた。


おそるおそる会議室の中へと入り、長ソファに座って、沈んだ気持ちで部長を待つ。

部長はすぐにやってきて、会議室を閉めると、テーブルを挟んだ正面に座った。
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