冷酷上司の甘いささやき
なんとなく、買いものカゴを手に取り、お酒売り場に向かう。
合コンでもそれなりに飲んだけど……あんまり楽しめなかったのもあって、いまいち酔えなかったんだよね。飲み足りないっていうか……。


缶ビールを三本手に取り、カゴに入れる。
そして、お惣菜売り場に行き、焼き鳥を手に取る。

どうしよう。ごちそうだ。さっきの合コンで食べた海鮮のコースより……なんて思うのは、お金を少し多めに出してくれた男の子たちに悪いよね……ごめんなさい。



私は缶ビールと焼き鳥を入れたスーパーの袋をさげ、アパートへと帰った。


「うまーっ」

ひとり暮らしの六畳一間の部屋の真ん中に置かれたガラステーブルの上に缶ビールと焼き鳥を広げ、それを頬張る。


なんかすっっごい幸せ。



戸田 由依。銀行に勤めるごくフツーの二十八歳。ちなみに入社六年目。


周りの友だちは、結婚した人も多いし、子どもがいる人も多い。そんな年齢。



でも私は……結婚したいとは思わないし、もっと言えば恋愛にも興味なし。

だって、彼氏ができたら、ひとりで過ごす時間が減っちゃう。

私は、誰かと過ごす時間が嫌いなわけじゃないけど、ひとりでこうやって家でお酒飲んでダラダラする時間が好き……。


取りこんだ洗濯物も、畳むのはいつでもいい。流しに洗ってない食器があるけど、今じゃなくていいや。

……自分のペースのみで過ごせるこの貴重な時間が、彼氏ができたらきっと削られてしまう。彼氏に私のこんな姿を見せるわけにはいかないし。
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