冷酷上司の甘いささやき
「お疲れ」

課長も、普段通りクールにあいさつを返す。

それは、誰がどこで見ているかわからないからそうしているのか、それとも、課長も私と同じく、付き合い始めたからといって急に態度を変えることはまずありえないタイプだからなのかはわからないけど。


……両方かな。私たちは、似ている部分があるもんね。だからこそ、付き合うって形になったんだし。



……このままさらっとすれ違って更衣室へ向かうか、少し立ち話をするか。

課長と接するの気まずいなって朝からずっと思っていたけど、いざふたりきりになったら、少し話したい気もしてきた。私らしくないような恋人らしいことがしたいわけじゃない。少し話すだけ。少し話すだけなら、もし誰かに見られてもべつに変じゃないよね。

でも、今まで社内で課長とたわいもない話なんてしたことないし、やっぱりここで会話するべきじゃないかな。課長は、どう思っているだろう。階段をゆっくりと降りながら、もんもんとそんなことを考えていると。

課長もそのまま階段をあがってきて、そして、私の目の前でぴた、と足を止めた。そして。


「……明日、ヒマ?」

ぼそっと、そんなことを聞いてきた。


「明日ですか?」

「土曜だし、桜でも見に行くかと思って」

と、言ってくれた。


……桜。お花見。というか、これは。
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