冷酷上司の甘いささやき
……少し、意外かも。課長、職場では私や日野さん、ううん女性社員みんなに結構厳しめな口調なのに、今の阿部さんとの会話は雰囲気がやさしい。


……職場じゃないから、ってことかな?
そうだよね、私だって、課長が実は怖くない人なんだってわかったのは、会社の外で話したのがきっかけだったもんね。



……なんだか、胸がちくんと痛んだ。私だけしか知らなかったはずの課長の顔のひとつが、阿部さんにバレてしまった。なんて思うのは自己中だよね。



すると。

「阿部さん、月曜日は仕事来てね」

という課長の、やさしげな口調ではあるもののドストレートな発言が聞こえてきて、私は思わず固まる。か、課長! たしかにキツい言い方じゃないけど、その言い方も大丈夫なのー!? と、不安になり、私はそぉ……っと、木の陰から顔を出し、ふたりに目を向ける。



……ウソ。なんで。



私は、その光景を見て、さらに固まった。動けなくなった。




……課長、なんで阿部さんにそんなに明るく笑ってるの?



いけない、早く隠れなきゃ見つかっちゃう。私は慌てて木の陰に体を戻した。




「じゃあ、また月曜日に」

「はい! 月曜日は行きます!」


そんな会話が聞こえて……課長が「お待たせ。阿部さんたち、もう帰るってさ。姿も見えなくなった」と、私のいる木の陰に顔を出してくれた。



「は、はい……」

私は木の陰から体を出して、元いた場所に戻る。
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