冷酷上司の甘いささやき
「男性だらけのあの空間でずっと働いてたら絶対彼氏できますよ! いろんな会社に足を運ぶから出会いもありそうだし! うああうらやましい! 私が営業課希望した時は『お前にはまだ早い』って部長言ったくせにー! うああ」


部長は日野さんの不純な動機は見抜いていたんだろうな……いや、今はそれは置いといて。



今日の午前中は、課長と阿部さんはずっと外に出ていたから、ふたりの様子はまだよくわからない。でも、私が阿部さんの指導係をしていた時みたいに、ほぼ一日中いっしょにいるんだろうな……。


新人で営業として外回りするってきっとすごく大変だと思うけど、課長と話している阿部さんはすごく楽しそうだった。

事務課にいる時は仕事に対してやる気がなさそうだったけど、課長と組むことで案外、営業課で意欲的に仕事をするのかもしれない……。
だから、阿部さんにとってはきっと、これが一番良かったんだ……。




相変わらずなんだかモヤモヤした気持ちが続いたまま、あっという間に窓口の営業時間が終わった。

勘定と伝票の確認も終え、私は資料を綴るために営業室の奥の書庫室に入った。


そして作業をしていると、誰かと誰かが明るく話しながら書庫室に近づいてくるのがわかった。


耳をすませると、それは課長と阿部さんだった。さっきまでずっといっしょに外に出ていたけど帰ってきたんだ!



隠れる必要なんてないのに、私は書庫室の一番奥の、大きな柱の奥に隠れてしまった。
私、なにやってるんだろうって隠れてからすぐに思ったけど、課長と阿部さんが書庫室に入ってきて、今さら出て行けなくなり、そのまま身を潜めた。
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