冷酷上司の甘いささやき



あのあと、窓口でちょっとトラブルがあった。
店外のATMの機器トラブルが発生し、それに怒ったお客様のクレームの対応をしていた。

もちろんお客様が悪いわけではないけど、十七時半を回った現在、ようやく自分の仕事が全て片づいたところだった。予定では、十六時には課長に頼まれた振り込みの入力手続きを開始する予定だったんだけど。
まあそんなことを言っていても仕方ない。よし、振り込みの手続きを開始しよう。


そう思った、その時。



「戸田さん、お先に失礼します」

その声に振り向くと、日野さんが帰り支度を終えて私にぺこ、と頭を下げた。


「え、え?」

思わず聞き返す。

……振り込みの手続きのこと忘れてるわけじゃないよね? そう思って、私がさりげなく「振り込み……」と口にすると。


「あ、大丈夫です! 私の分はさっき入力を終えて、もう課長に提出したので!」

と、日野さんは明るく答えた。


いや……自分の分は終わったかもしれないけど。

これ、そもそもあなたの仕事だからね? あなたが振り込みの係で、あなたが課長から頼まれた仕事でしょ? もちろん、こと量をひとりでこなせとは言っているわけじゃない。けど、私の分を手伝ってくれるとか、そういう考えは……?


ていうか、そういえば日野さん、一覧表の三分の一しかやってないじゃん! 私が三分の二だよ⁉︎
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