冷酷上司の甘いささやき
前の私は、阿部さんに厳しくして嫌われることが怖くて、遠慮して。
自分ではやさしくしてるつもりで、それは阿部さんに対して全然やさしくなかった。

阿部さんを立派な社員に育てることが一番大事で、そのためなら嫌われても仕方ない。



そうやって接していくうちに……




「戸田さん……この書類の作成、教えてください」


阿部さんが、私に質問をしてくれるようになった。仕事にも、以前よりずいぶん積極的になったのがわかってきた。それは、とてもうれしいことだった。



阿部さんの成長を感じられると、なんだか自分も変わってきたように思えるようになった。

人とかかわることがどこか面倒だと感じていた頃の自分より、どこか成長できた気がする。


いや、ひとり好きなのはやっぱり相変わらずだけど。





そんなある日のことだった。


「同窓会?」

私は、電話の向こうの友人、マイちゃんに聞き返した。



『うん、そうー。まあ、同窓会と言っても数人来るだけだけどねー。由依もヒマだったら来なよ。土曜って仕事休みでしょ?』

女の子にしては少し低めのかっこいいハスキーボイスも、サバサバした口調も、学生時代から変わらずだ。


マイちゃんは、大学時代の友人で、クラスもサークルもいっしょで、私にとっては珍しく、ずっといっしょにいても疲れない、そんな存在だった。


私は少し人見知りな毛があるけど、大学の入学式でマイちゃんが話しかけてくれて、そのままいっしょに歴史サークルに入ったんだっけ。
歴史が大好きな、いわゆる歴女なマイちゃんと違って私はとくに歴史が好きというわけではなかったけど、せっかくできた気の合う友だちが誘ってくれたサークルだったし、ハードなスポーツ系のサークルに入るよりは全然楽しそうだと思ったので、入部した。
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