私の彼、後ろの彼。


「はっ…」

私は思わず後退りをしてしまった。

目の前には大法廷のようなものが広がっていた。

左右には何十段にもなって審判霊が座っていた。

白い髭を伸ばした老人から、僕と見た目は変わらない若者まで、老若男女さまざまな人がいた。

両極端な見た目だったが、1つだけ同じなのは、 皆が白いローブを着ていたこと。

前には2メートルほどの壇の上に5段ほどの裁判席のようなものがそびえ立っていた。

一番上にいる真ん中の男性は白い髭を長く伸ばし、髪の少なくなった頭をさすった。

おそらく、あの男性が一番偉い、裁判官のような者なのだろうと直感で分かった。

「天野優輝、審判霊総監であるわしが、今からそなたを審議にかける。理由は分かっているかな」

さっきの男性の声だった。

やはり真ん中の男性。

「はい。分かっています」

「良かろう。では早速、天野優輝の担当であった颯零に聞く。彼はどのような人間だった」

審判長は颯零さんに聞いた。

「はい。審判霊総監」

颯零さんはいつの間にか私の隣にいた。

「天野君はとても優しく、人から愛される、可愛い子どもでした。兄弟はいませんでしたが両親に愛情一杯育てられ、自らに注がれた愛情を誰かに与えたいと思っていました。中学、高校と文武両道に努めて、友達も大切にしてきました」

「なるほど。そなたはとても良い人間だったということだな」

私はコクりとうなずいた。

颯零さんは胸を張って私のことを褒めてくれた。

少し照れくさくなって、お世辞を言い過ぎではないかとも思ったが、嘘はつけないと言っていたことを信じるとするならば、颯零さんの本音だと私は自分に言い聞かせた。

「では、死に至るまでの経緯を」

私は思わず颯零さんを見た。

颯零さんも私を見ていた。

「颯零さん…」

「大丈夫。天野君が天国へ行くためにも全てを伝えることが私の役目だから」

颯零さんは立ち上がり声を高らかに答えた。

「天野君は2年前、脳腫瘍を発症し、闘病の末今に至ります。闘病中は自らが辛い気持ちをひた隠しにし、周囲には努めて明るく振る舞っていました。両親に不安を抱かせぬように。夜、彼は1人で泣いていました。本当は死にたくないと。私はどうにかして守ってあげたいと思っていましたが、救うことができませんでした。最後に私はどうしても彼を救いたいです。どうか、素直な彼を、天国で育てて頂けないでしょうか」

そう言うと颯零さんは一筋の涙を流した。

震える声で、審判霊たちの心を揺れ動かした。

周りからはすすり泣く声が聞こえてきた。



それからしばらくしてのこと。

トントントン

また、木を叩く音が聞こえた。

「審判を申す」

審判霊総監の声が私の耳に入ってきた。

いよいよ審判の時。

「天野優輝。そなたは皆から愛されてきた。わしが育て上げた颯零の心をも掴んだ。さらに、そなたは親から受けた愛情を他の誰かに与えたいと思っている」

私は息を飲んだ。

「よって天野優輝。今からそなたの名を、天零と定める。そしてそなたを守護霊養成所へ送ることとする。指導霊は颯零」

「ありがとうございます」

颯零さんが頭を下げた。

「これにて天野優輝の審議を終了とする」

ドンドンドン

また木が鳴った。

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