私の彼、後ろの彼。
3 瞳の奥の私
てんちゃんは守護霊として初めて担当したのが私だと教えてくれた。
てんちゃんは何でも教えてくれた。
中学の勉強も教えてくれた。
てんちゃんが生きている頃はそんなに頭が良くなかったのに不思議だな、ってよく言っていた。
それからてんちゃんはカッコよかった。
てんちゃんは嫌いって言ってたけど、くるくるした髪型が私は好きだった。
背は高くて、いつも優しい。
29歳って言ってたのに子どもっぽく、クシャッとした顔で笑う。
生きていた頃はお寿司が大好きだったみたいで、私たちがお寿司を食べているとヨダレを垂らしそうになったし、可哀想にと思った私がお寿司をあげると、掴めないと言って泣いたこともあった。
私はてんちゃんのことが見えても、てんちゃんに触れることはできない。
もちろんその逆で、てんちゃんが私に触れることもできないようだった。
てんちゃんの声は低くて優しい。
小さい頃はてんちゃんの子守唄を聞いて寝ていた。
私はてんちゃんのことが大好きだった。
私は小さい頃からてんちゃんのことが見えていたし、話をすることもできた。
だからお母さんやお姉ちゃんも見えているのかと思って、一度だけ話をしたことがあった。
それも本当に小さい頃に。
3歳か4歳か…。
そしたらお母さんは怯えた顔で私を見た。
何か恐ろしいものを見たかのような顔だった。
何か変なものを食べたか、どこかにアタマをぶつけたか、何かされたのか、いろいろ聞いてきた。
でも、そんなことをしなくてもてんちゃんは初めから見えていた。
病院に行って、脳のCTを撮らされたこともあった。
お母さんに言う前にてんちゃんに相談すれば良かったが、まだ小さかったからそんなことも考え付かなかった。
それからはてんちゃんと2人きりでいる時にしか話さなかった。
てんちゃんは学校に行く度に1人にされるから寂しいと駄々をこねたこともあった。
その分家に帰ると部屋にこもり、学校の出来事について沢山話した。
授業中に誰が居眠りをしていたとか、給食の時に誰が何を残したとか、今日は誰がクラスのニンキモノニ告白したとか…。
てんちゃんは意外とロマンチストだった。
そんなところも私は好きだった。