私の彼、後ろの彼。
「ただいまー」
「ただいまー」
お母さんとお姉ちゃんの声が聞こえた。
どうやら2人は一緒に帰ってきたようだ。
てんちゃんと話し込んで時間を気にすることもなかったが、窓の外はもう薄暗くなっていた。
「璃子いるのー?」
お母さんの声が聞こえた。
「はーい」
お母さんは近くのIT企業の社長秘書をしていた。
見た目からは想像がつかないが、実はとても頭が良く、愛想が良いらしい。
今日も入学式が始まる直前に学校に来て、式が終わるとすぐに会社へと戻ってしまった。
学校の行事にはほとんど参加してくれたが、会議や出張の都合で来れないこともあった。
そんなときはお父さんが来てくれていた。
お父さんは小学校の先生をしていた。
とても優しいお父さんだった。
でもお父さんは3年前に亡くなった。
通勤途中で交通事故に遭い、出血多量で2日後に亡くなった。
私は毎日泣いた。
お母さんも泣いていた。
普段は強くて、お父さんよりも強いお母さんが、泣いた。
お姉ちゃんも泣いていた。
そして、てんちゃんが教えてくれた。
「お父さんもきっと、守護霊になったよ」
って…。
お父さんを思い出すと、すぐに涙が出そうになった。
「璃子、入学式はとうだった?」
「聞いてよ、お姉ちゃん。私の隣の男子が最悪だったんだよ」
私は溢れる涙をこらえ、お姉ちゃんの腕を振り回して言った。
私がてんちゃんのことを好きなぐらい、お姉ちゃんのことも好きだった。
お姉ちゃんは大学2年生。
家からはバスと電車を使って通っている。
お姉ちゃんは私のことを甘やかす。
怒らないし、何でも買ってくれるし、どこにでも連れて行ってくれる。
お母さんとはすごく息が合っていた。