私の彼、後ろの彼。
「最悪って、何が最悪なの」
どうやらお母さんが聞いていたらしい。
「あのね、私の隣の男子が最悪だったの」
「何で最悪だったの」
お母さんは、話を納得がいくまで追求しなければ気がすまない人だった。
「私の隣の男子、新田真って言うんだけど、その人、入学式で寝てたんだよ」
私は彼を思い出して何だかイライラしてきた。
「入学式で寝るなんて、よくあることじゃん」
「でもねでもね、私の肩に頭乗せて寝て、新入生代表の挨拶だったのに起きなくて、私まで怒られたんだから」
「新田なんて、この辺じゃ聞かない名字ね」
「うん。私もほとんど話してないから分からないけど…」
「明日詳しく聞いてみなさいよ」
お姉ちゃんはニコニコしながら言った。
お母さんは、
「まったく、もう」
と言って呆れていた。
夕食はお姉ちゃんの彼氏の話で盛り上がった。
同じ大学で同じゼミらしい。
一度だけ見たことがあったが、ちょっとチャラそうな人だった。
茶髪で前髪が長くて、耳にピアスをしていたし、お尻が見えそうなほどズボンを下げて履いていた。
お姉ちゃんは見た目はそこそこキレイだし、真面目そうで、頭も良かったが、男を見る目がないとお母さんはよく言っていた。
「まったく、あんたは男を見る目がないんだから」
ほらまた。
「璃子も早く彼氏作りな」
お姉ちゃんは私を横目に言った。
「15年間彼氏がいないなんて可哀想に」
お母さんは涙を拭うフリをした。
「もう、2人とも!」
こういうときも2人の息はぴったり。
食卓はなるべく家族みんなで囲むようにというのがうちのルールだった。
仕事でお母さんは遅くなることもあったが、3人しかいない家族で食事をし、今日の出来事を報告していた。
お姉ちゃんは反抗期にならなかったと言ったが、私は中学のときに反抗期になった。
親ともお姉ちゃんとも口を聞きたくなかった。
たけど、食卓はみんなと一緒に席に着いた。
話しはしなかったけれど、部屋に引き込もって1人で食べるなんてことはなかった。
それが良かったのかもしれないね、とてんちゃんは笑って言った。