私の彼、後ろの彼。
「璃子、美香がいた。ここからはシーだよ」
てんちゃんが指差す方には美香が立っていた。
そして美香の隣には健人が自転車を石垣に立て掛けていた。
「じゃあ、今日も1日頑張ろうね」
私は小声でてんちゃんに言った。
「オー!」
てんちゃんも私に合わせて小声で返した。
「美香、健人、おはよう」
「あ、璃子おはよう」
「よっ」
美香と健人は昨日と変わらず元気だった。
1つだけ変わっていたこととは、美香が香水をつけていたこと。
私は全然気付かなかったが、てんちゃんが教えてくれた。
「香水つけてる?」
今日から何か知らないが当番があると言って健人が先に学校へ行ったので、私は美香に聞いてみた。
すると美香は驚いた顔で私を見た。
「うそ、そんなに分かるかな。ちょっとしかつけてないつもりだったんだけど」
そう言って顔を右、左、と振り回して自分のにおいを嗅いだ。
「ちょ、ちょっとだけね。何かいつもとは違うなーって思っただけ」
「そっか。じゃあ健人は気づいてないかな」
「う、うん。多分」
どうやら美香は、香水をつけていることを知られたくなかったようだ。
「実はね、この香水、健人が好きなにおいなんだって。この前3人で買い物に行ったとき、健人が香水売り場のところにいて、これが好きって言ってたの」
美香は意外と乙女なところがあったのだ。
「ねえ、健人は気づいたかな?なんだこいつ、って思われちゃったかな」
美香は心配性なところもあった。
「きっと大丈夫だよ。健人って疎いところがあるじゃん」
「そうだよね。そうだよね。大丈夫だよね」
美香は自分に言い聞かせ心を落ち着かせるように言った。
美香は健人のことが好き。
でも美香がその事を口に出すことはなかった。
だから私も聞くことができなかった。
私は臆病者だから。