私の彼、後ろの彼。
「じゃあ、美香、お昼休みに来るね。例の新入生代表を見に」
そう言って美香は健人が待つ2組の教室へと入っていった。
私の気持ちは一気に重たくなった。
ドア越しに教室を覗くと、すでに新田真が来ていた。
「行きたくない」
私はつい本音を口から出してしまった。
「璃子、大丈夫。璃子には私がついてる」
少し深呼吸をすると、触れられるはずがないのに、背中をポンとてんちゃんに押される感覚があった。
その勢いで私は教室に足を踏み入れた。
止まることなる机に向かい、椅子に座った。
「あ、璃子おはよう」
新田真が声をかけてきた。
今日も寝癖があった。
後ろの髪が一ヶ所だけピンとハネていた。
メガネの奥の瞳は相変わらずキラキラして、これまた相変わらずまぶたが重く眠そうだった。
「おはようございます」
私は一礼して挨拶をした。
昨日会ったばかりのよく知らない人に馴れ馴れしく挨拶ができるほど、私は愛想が良くなかった。
「…ございますって。やっぱり璃子は真面目なんだな」
新田真はそう言って笑った。
私は昨日と同様イラッとしたが、特に反応することなく席に着いた。
周りはみんなもう友達ができたのか、近くの席同士で話をして盛り上がっていた。
話の輪に入る勇気はないし、誰かに話しかけに行く勇気ももちろんなかった私は、また机に伏せて、周りの景色を遮った。
何分過ぎたかは覚えていなかったか、しばらくすると教室に先生が入ってきた。
「みんな、おはよう」
「おはようございます」
「担任の宮下です。よろしく」
ようやく先生は自分の名前を言った。
「では早速だが、今からプリントを渡すから15分程度で記入してくれ」
そう言って宮下先生はプリントを配り始めた。