私の彼、後ろの彼。
「はい、終了」
宮下先生の掛け声でペンを置き、プリントを回収した。
結局私は彼のおかげで全ての質問に答えることができた。
少しだけ、彼のことを見直した。
少しだけ、彼のことを好きになった。
「では、次にクラスの委員を決めていきます」
宮下先生の言葉でまた教室がざわついた。
クラス委員なんてやりたくない人の方がおおいはず。
「クラス委員だけどな、代表的なのは学級委員長と副委員長、書記、会計の4人だ。それから俺が勝手に決めたクラス委員は、生徒が怪我したり具合悪いときの保健、男と女1人ずつ、ノートやプリントの集配2人、体育祭の担当を男と女2人ずつ、文化祭は3人、それから日直は毎日一人ずつ」
「俺体育祭やるー」
「私たち文化祭」
「委員長とか絶対嫌だよな」
教室では皆口々に自分の言いたいことを言い放った。
私だって委員長とかやりたくないし、きっと手を挙げなければ関わることもないだろう…。
「璃子は保健とか良いんじゃないか?優しいし、心配性だし、人の面倒見るの好きだろう」
てんちゃんはいつの間にか私の隣にあぐらをかいて座っていた。
そんなこと言ったって、特にやりたいとは思わないし、私に務まるとも思わないし。
「はいはい。みんな静かにー」
高校生活2日目だというのに、何年も一緒にいた友達のように教室が盛り上がっていたときだった。
宮下先生の声で教室は静まり返った。
「実はな、残念なことに…。クラス委員は先生の独断と偏見によって決めさせてもらった」
「えええええー」
静かになったと思った次の瞬間には教室中から声が上がった。
「では、発表しまーす」
皆が宮下先生を見た。
「えー、保健は郡司健太と岡崎幸恵(オカザキ サチエ)、よろしくー。集配は真鍋晃と佐々木拓馬、頼んだ。次に…」
次々と名前が読み上げられていく。
自分のやりたい仕事を与えられた者は、「よし!」とガッツポーズをし、納得が行かない者は頭を抱えた。
今のところ、私の名前は出てこない。
この調子だと残すは学級委員だけ。
大丈夫だろう…。
「それじゃあ、最後に学級委員なー」
皆、やりたくないのだろう。
手の平を合わせて祈る生徒が何人もいた。
「まず、会計は阿部歩美。それから書記、矢島公平…」
「なんでだよー」
呼ばれた生徒は両手を挙げて天を仰いだ。
そしていよいよ残りの2人。
「最後に、学級委員長は…新田真。副委員長は…長浜璃子。以上」
「……」
…え。
今、長浜璃子って?
それに、新田真って…。
「璃子、副委員長だってさ」
てんちゃんの声が聞こえた。
うそ。
うそだ。
こんなのうそだよ。
私はほっぺたをツネった。
ものすごく痛かった。
嘘じゃない…?
「璃子が副委員長になることは初めから決まってたんだよ」
てんちゃんは言った。
「それならもっと早く言ってよ!」
私はつい声を出してしまった。
「ん?長浜どうかしたか?」
「あ、いえ。なんでもありません」
私は宮下先生と周りの生徒に頭を下げた。
「よし、それじゃあ新田と長浜前に出てこい」
そんな…。
私は腰が重く立てなかった。
「璃子、行くぞ」
するとスッと私の腕を持ち上げた人がいた。
新田真だった。
「新田真です」
「な、長浜璃子です」
私たちは教壇の前に立って一礼した。
みんなが私たちに注目した。
「璃子、改めてよろしく」
彼は右手を差し出した。
「よろしく…」
私も右手を差し出した。
大きな彼の瞳には、不安と緊張で眉が下がり、情けない顔の私が小さく写っていた。