私の彼、後ろの彼。
4 私の理想人
「先生…私、なんで、副委員長なんですか」
ホームルームが終わり、教室を出ようとする宮下先生に、私はどうしても納得できず聞いた。
頭が良いわけでもないし、中学時代に何か委員長をやったわけでもないし、副委員長に選ばれる理由が分からなかった。
それに、あの新田真と一緒にやるということも嫌だった。
「長浜、あのな、お前と新田を学級委員長と副にするっていうのは入学式のときから決めてたんだ」
「え、それはどういうことですか」
「お前ら、入学式からいろいろと問題起こしたよな」
「え、でも、それは…」
「新田だけが悪いのかもしれないが、それを注意しないお前も悪いぞ。だから、連帯責任だ。前期中は2人でやりなさい」
私は返す言葉が見つからなかった。
私が副委員長になったのは、私の性格や特徴を分かった上で先生が選んだのではない。
新田真のせいで、私の仕事ぶりなど知る由もなく、ただ単に彼を注意しなかったからというだけの理由だった。
「じゃ、明日からよろしくな」
そう言って右手を軽く挙げて、何事もない顔で教室を後にする宮下先生の姿を見て、私の中で沸々と何かが煮えたぎるのを感じた。
「璃子、抑えて抑えて」
てんちゃんの声が遠くから聞こえたが、煮えたぎる何かはすでに鍋から溢れだしそうだった。
「…にっ、新田…真…」
私の声は震えていた。
自分でも震えているのが分かった。
ついでに、爪が手のひらに食い込んでしまいそうなほどの握りこぶしも、声が震えるのと同時に、静かに、でもたしかに震えていた。
私は必死で歯を食い縛り、新田真に怒りをぶつけるべく振り返った。
するといるはずの席に彼はいない。
リュックを肩にぶら下げ、急いで教室を出ていく姿が見えた。
私は怒りをぶつける矛先が見当たらなかった。
「もう!」
こんなときは、何にも八つ当たりをしない。
私が怒っているのは彼に対してであって、その他のものにはなんの罪もないから。
反抗期のときに学んだ。
怒りをぶつけるのは怒りの対象物にだけと、てんちゃんと約束していた。
私は怒りを沈めて静かに席に着いた。
「璃子、こういうときは週末、どこに行こうかなーって考えるんだ」
てんちゃんは、また私の机の前に来て笑って見せた。
コクりと静かにうなづいた私は、次の授業で使うノートの切れ端に行きたいところ、やりたいことを書いた。
遊園地、お花見、買い物、映画、美香と健人と3人でおでかけ…。
「私はお花見がいいなー」
てんちゃんは言った。
私は、お花見のところに丸をつけた。
「じゃあ、今度の週末はお花見で決定だな、璃子」
そう言って、てんちゃんは軽くスキップをしながら窓の外を見た。