私の彼、後ろの彼。


チュンチュン

スズメの鳴き声が聞こえた。

「ふぁー」

私はカーテンを開けながら大きく伸びをした。

「てんちゃん、おはよう」

「璃子、おはよう。今日の夢はどうだった」

「なんだか面白かった。でも、なんでこんな夢にしたの」

「私のただの思いつきだよ」

昨日は美香と別れて家に帰るとすぐに寝てしまった。

ご飯の時間に起きたものの、ちょっとだけテレビを見て、お風呂に入るとまた眠気が襲ってきたのですぐに寝た。

いつもならこういう夢を見たいって言うところだけど、そんな余裕もなかった。

そしたらてんちゃんは、昨日の出来事をそのまま夢にしてしまった。

ただ、私は私ではなく、第三者としての傍観者だった。

自分で自分を見るなんて初めてだったから、すごく不思議で面白かった。

天野先生を見たときの私の表情もすごかったけど、てんちゃんの驚き方も面白かった。

目を丸くして「ええええー」なんて大声上げちゃってたし、後ろに反り返ってたし。

出来事をそのまま夢にしたっていうのもまた、新鮮で面白かった。

てんちゃんはただの思いつきだって言ってたけど、てんちゃんはもう一度あの、天野先生を見たかったんだと思う。

本当にてんちゃんに似てたから。

それに、私にも天野先生を見せたいと思ったんじゃないかな、と少し期待もしていた。

「璃子。今日は早く帰ってきてくれないかな」

家を出るために靴を履いているところだった。

お母さんが私に呼び掛けた。

「なんでー」

ちょっと遅刻ぎみだった私は、ながら返事をした。

「今日はお父さんの命日だから、みんなでご飯食べましょう。お母さんも早く帰ってくるから」

「うん。分かった。いってきまーす」

私としたことが、忘れていた。

忘れちゃいけないのに、お父さんの命日が今日だって、忘れていた。

私のばか!

最近すごく忙しかったし、イライラすることばっかりだし、お父さんも許してくれるかな。


「ねえ、てんちゃん」

「ん?どうした」

やっぱり、その聞き方…。

天野先生に似てる。

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