私の彼、後ろの彼。


「おーい、ホールに行くぞー」

 教室に入っても知っている人などいなかった私は、机に伏せて寝たふりをしていた。

 そんな中いきなり教室の扉を開け、大声で教室に入ってきたのは、おそらく先生だろう。

「ほらー!番号順に並べ並べ」

 先生らしき人は自分の名前も述べず、挨拶もせず、私たちを引き連れて入学式が行われるホールへと向かった。

 先生に言われるがまま、私たちは椅子に座り、校長先生や来賓が座るのを待った。



 5分ぐらいは経っただろうか。

 全ての準備が整ったらしく、司会役がマイクに近づき進行をしていく。

 教頭先生が開式の言葉を述べ、聞いたこともない校歌斉唱をすると、後は何十分もつまらない祝辞や来賓の挨拶が続いた。

 回りを見てみると、あちこちで首が曲がり、体が右へ左へと揺れ動き、今まさに眠りにつきそうな者もいた。

 そして、困ったことに私の隣の生徒が、寝ていた。

 なぜ困ったか。

彼の頭が私の肩に乗っかっていたから。

 そして、もっと困ったのが、隣の人が男子生徒だったということ。

 名前も知らない、こんな人が同じクラスだったことも知らなかったという理由で、私は彼を起こすことができず、身動きもとれずにいた。



 そしていつしか、式は新入生の挨拶へと進んだ。

 司会が新入生代表の名前を読み上げた。

「1年4組、新田真(ニッタ シン)」

 私のクラスだった。

 "新田"ということは、私の近くということになる。

 私の隣の彼はまだ寝ていた。

 もし、寝ている彼が、新田真であるとするならば…。

 この時、瞬時に良い場合と悪い場合が頭に浮かんだ。

 私は、良い場合でありますようにと祈るように、 私の2つ隣に座っている男子生徒に「あなた?」と小さな声で聞いた。

 すると予想通り悪い予感は的中した。

 男子生徒は"平岡"という名前がかかれたネームプレートを私に見せてくれた。

「新田真!」

 先程まで静かだった司会の声が豹変し、響き渡る声となってホールを包み込んだ。

「はぁーい」

 あくびをしながら返事をした私の隣の彼は、天高く伸びをしながら席を立ち、ステージへと上がって行った。

 この一連の流れに会場はざわめいた。

「あいつ大丈夫かよ」等という声が聞こえてきた。

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