Live as if you will die tomorrow
29


咥えていた煙草の先端から、灰がふわりと落ちた。


「……俺がやるの?」


滑走路を飛び立っていく白い巨体を眺めながら呟いた俺の問いに、植え込みを挟んで、背中合わせになる形で座る男は答えない。


空港のラウンジは比較的空いていて、出張などビジネス関係の人間が、読書をしたり、パソコンを広げたりしている。



「あの人何したの。」


その問いにも、男は無言を貫き通した。


「………特に目立ったことはしてない筈だけど、、用無しってこと?」


「そこまでは。ただ、この組織の体制を新たにする上で、退いて頂きたいとのことです。」



今度は返ってきた答えに、俺は、はっと笑う。


「あの人が創始者なのに、か。ざまぁねぇな。後釜は誰よ。小学生?」


「まさか。あの方は若すぎます。まだ確定しておりませんので、分かり次第追って連絡致します。」


抑揚のない声だから、この男の感情はいつも分からなかった。



「あの人が居なくなるのに、俺は退かなくて良いわけ?」


さっきからずっと視線を置いている、大きな窓硝子の向こうから、また一機、飛行機が飛んでいく。



「あなたの代わりはいませんから。」


翼をいっぱいに広げて、高く高く、空へと飛んでいく。




俺は。






「…まだ、飛べないか。」



きっとー死ぬまで。
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