Live as if you will die tomorrow
いつものように帰宅すると、玄関から続く廊下に、リビングから仄かな明かりが漏れていた。
ー葉月、まだ寝てないのか?
驚いて時間を確認すると、時刻は午前4時。
不審に思いながら、ドアを開け、リビングに入って。
「…はは」
待っていた光景に、脱力して、笑みが溢れた。
リビングのテーブルには、ご馳走、とは言えないけれど、いつもより品数の多い食事が並べられていて、29のロウソクと、anniversaryの文字。
その真ん前に、突っ伏して寝息を立てている葉月がいた。
ーなんで今年に限って思い出したんだ?
毎年あるわけではない妹の行動は、俺の理解を越える。
ー確かに今年はある意味で、記念にはなりそうだな。
ジャケットを脱ぐ前に、ケーキの生クリームを、指でひと掬いして、舐めた。
「ー甘………」
甘さは、ひとの気持ちを弛めさせる。
口の中にじんわり広がるそれが、どうして心に触れるのか。
甘さなんて、必要ないと分かっているのに。
「………」
この日だけは、さすがに視界がぼやけた。
ここから出ることのできない、息苦しさに。