Live as if you will die tomorrow
夕焼けから溢れる光が、少し開いたドアの隙間から入り込んできていたのに気付き、鉄扉をしっかりと閉め直す。
カタン。音を立ててカウンターに置かれたグラスを見て、前に座る崇が歓声を上げた。
「うひょー!何々?今回やけに気前良いじゃん。氷が最初から入ってる…」
だが、ロックで出したものがアブサンだと分かると、崇の顔に緊張の色が走る。
アブサンの語源は、「存在しない」ことを意味する。
つまり、この酒を俺が出した時は、オンブラの仕事が来たことー誰かを存在しなくさせるーを示したからだ。
ここ最近は暫く、オンブラ関係の情報収集を頼む事がなかった分、崇も気が緩んでいたのだろう。
「この人について、調べてもらいたい。何でもいい、細かい事まで隅々。」
渡した紙を見て、崇の目が見開かれる。
「こんなん…日本中大体の人間が知ってるだろ。しかも警備が中々きつい。つーか、この人割とクリーンな政治やってたろ、今だって悪い事には関わってなさそうだけど…」
「理由なんてどうでもいいんだ。早く調べて。」
これ以上この話を崇と進めたくなくて、ややぶっきらぼうな物言いをした。
「だって流石にこの人消えたら世界は気付くだろ。」