Live as if you will die tomorrow
18






桜の花も散って。


夏の葉も落ちて。


そろそろ冬の寒さが入り混じる頃。



静は家を出て行った。

夫が不在なのを良いことに、散々悪態を吐いて。

自分の部屋にある物は全て自分の物だと言い張り、部屋にあった金目のものは全部持って行った。


代わりに。




「おにいちゃん!」




純真無垢なまま、何も知らないままで育った、幼い娘を置いて行った。

言葉も達者になって、鏡を見つけると立ち止まってくるりと回って見せる。


家政婦達から、『葉月様はおしゃまさんね。』と言われて喜んでいた。



「葉月。」



18になった俺は、大学受験を控えていて、だからといって焦る事も無く。

この家でのよくある光景に、いちいち動揺したりすることもない。



「そんな所に登ったら危ないよ。」


階段の手摺に器用によじ登った葉月の頭を撫でてやれば、彼女は不思議そうに首を傾げた。



「だぁって、皆が外見てるから。何かあったのかなぁってお部屋から出て来たの!ねぇねぇ、何があったの?」


皆、嵐のように去って行った静を見送っていたのだ。

俺は、それを階段の上から何ともなしに見下ろしていただけ。


「…静さんが、出て行ったんだよ。」


隠すことでもない。


「ふーん…」


だって、葉月は傷付かない。
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