Live as if you will die tomorrow
「寂しい?」
訊けば、葉月は思いっきり顔を顰めた。
「ううん」
そして首を振る。
「葉月は、あの人、きらい。」
べぇっと真っ赤な舌を出して、自分の嫌い度をアピールして見せる。
「でも葉月の母親だよ。」
「ははおや?」
俺の言った言葉を、葉月はもう一度繰り返して、手摺の上から、なんだそれ、とでもいうように、俺を見上げた。
「そう。」
「ははおやって、なぁに?」
「自分を産んだ人のことだよ。」
噛み砕いて説明しても、葉月にはイマイチピンとこないらしい。
腑に落ちない顔をしている。
「そのひとのこと、嫌いになっちゃ、だめなの?」
やがて、不安気な表情で、俺に訊ねた。
だから、笑って教えてあげた。
「そんなことないよ。」
母親という概念は、俺の中にない。
葉月の中にも育って居ない。
俺の母親も、葉月の母親も、この世に存在させてくれただけ。
生きていることの意味も。
価値も。
教えてくれなかった。
だけど、幸い、俺等には父親が居る。
実の、立派な父親が。
だから、心配することは何もない筈だった。
存在してて、良い筈だった。