Live as if you will die tomorrow
翌日の夕方。
日が短くなってきて、辺りは薄暗い。
俺は、店を開ける為に裏口に回って、ポケットの中を弄(まさぐ)る。
ジャラ、と出てきた鍵の中から一つ取って、咥えた煙草の灰に注意して顔を上げると。
燻る向こうに見えた扉の下に蹲る黒い塊。
「……零」
空生と呼び掛けそうになり、思い止まって、ルナでの名前を呼んだ。
空生は、自分の名前が大嫌いだからだ。
黒い塊からも、俺と同じように煙が上っていて、空生もヘビースモーカーだったな、と懐かしく思った。
「遅いよ。待ちくたびれた。」
うーん、と軽く伸びをしながらぼやいた勝手な言葉に、俺は笑う。
「馬鹿。待ちくたびれたのはこっちの方だ。」
一度手にしたのに見失った裏口の鍵を再び見つけて、戸を開けると、空生は当然のように入って行く。
「ーおかえり」
その背中に、届かない位の声で、呟いた。