Live as if you will die tomorrow
静が出て行ってから、暫く経った頃。
夜20時頃になると、ノックの音がする。
ぎこちない音の主は。
「お兄ちゃん、これ、読んでー」
返事を待たずに開けられたドアの隙間から、覗くおかっぱ。
「どれ。」
参考書から目を放し振り返ると、葉月は嬉しそうに駆け寄ってくる。
「これー!」
お母さん、を知らない葉月は、何故かお兄ちゃんは、知っていた。
果たしてお父さん、を知っているのかどうか。
俺だって会う機会はほぼないのだから、小さい葉月は尚の事だった。
「お月さまのおやすみ?」
差し出された絵本の表紙には、まんまるの黄色い月。そしてそれを屋根の上に座って眺める男の子が描かれていた。
「ばぁばに読んでもらったんだけど、もう疲れちゃったって。声ががらがらになっちゃったの!」
「…何回読んでもらったの?」
「んっと、えっと、、いち、にい、よん…なな…」
四角い絵本を脇に挟んで、指を数えて見せる葉月。
わかってはいたが、数がめちゃくちゃだ。
「沢山読んでもらったんだね。」
「うん!」
元気良く頷いた彼女は、どこか得意気だ。