Live as if you will die tomorrow
注文された品を目の前に出してやれば、小さくお礼を言った後でグラスに口を付け、ちびちびと呑んでいる。
その様子を見ると、やはり酒には弱いらしい。
それでも。若干酔った状態でも、まだ呑みたい理由があるのだろうか。
時折スツールをクルリと回して、フロアに目をやる女は、寂しげに見える。
だが、決して参加しようとはしない。
話しかけられたくないのであれば、俯いて周囲をシャットアウトする姿勢を見せるだろうが、この女はそうではないらしい。
話しかけたくはないけど、話しかけられたくない訳じゃない。
自分から入っていく気はない。でも、一人は嫌だ。そんな心境だろうか。
ーそういえば。
他の常連客の注文に応じながら、バーテンダーとして、話しかけてやるべきかどうか迷いつつ、ある事に気づき、ふと女の方に目をやると。
ーあそこは崇の席なんだよな。
予想通りの光景に、客にバレないよう、愛想笑いに呆れを含ませた。
「名前、なんていうの?」
茶髪男の軽い声が聞こえる。
「かわいい名前だね」
女の座った席は、崇の指定席だった。