Live as if you will die tomorrow








「ー燈真?」



ひらり、雪が落ちてきた、と思った。


でもそれは、幻覚で、顔を上げた先、切れかけた街灯の下に立っていたのは、空生だった。



「何してんの。煙草でも落とした?」



そう言う空生自身、火の着いていない煙草を口に咥えている。

気に入っていたはずの黒のキャップは、ここ数日見ていない。

最近は黒のフードで頭をすっぽり覆って、金色の髪を隠していた。



「俺、もうすぐ行くから。」



何も言わない俺の前まで、ゆっくり歩いてくると、空生は思い出したようにそう言い、ジッポーで煙草の先端に火を点す。

すごく寒いらしく、直ぐに両手をポケットに仕舞う。


俺は、今そんなことにすら、気付かない程、感情が先走っているようで、身体が寒いなんてこれっぽっちも思わなかった。感じなかった。

ルナと外の寒暖差は、激しい筈なのに。



「ー行くってことは、清算も済んだってこと?」


やっと出てきた言葉はこれで、俺の胸のしこりの原因もこれだった。


空生は利き手だけポケットから抜いて煙草を手にすると。


「清算は、明後日。空港でサヨナラ。」


ふー、と煙を吐き出し、また咥える。



「…花音ちゃんとも?」


「当たり前。あいつも、あと一回使ったら、用済み。」



何言ってるんだ、とでもいいたげな空生の反応に、安堵する俺は、漸く自分の息の白さに気付く。




「で、今度はどこ行くつもりなの。」



戻ってきた平静さを着直しながら、空生の吸っている煙草を奪えば、空生は鼻で笑って、肩を竦めた。



「今度は、まぁ、なんつーのかな、色々、整理しなきゃいけないことがあってね。」


言葉を濁しながら、新しい煙草を取り出して、空生は俺の隣を通り過ぎて行く。




「ーそう。」



深く詮索しないまま、扉の閉まる音を耳にしながら。



「ひとりで、行けんのかよ?」



星一つ見えない、暗い空に、静かに問い掛けた。


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