神様はきっともう罰しないから
「――はぁーん。そりゃ酒にも逃げるよなあ」
私の話を聞いて、朱鷺さんは腕組みをして頷いた。
「そういう理由なら、まあ仕方ねえのかもなあ」
「仕方なくは、ないんです。みっともないことしたって、分かってるんです。自分でも」
時折半泣きになりながら、朱鷺さんに全部話したら、少しだけすっきりした。
あの時、おとなしくフテ寝に移行していれば少しはましだったのかもしれない。
はあ、とため息をついた私を見て、朱鷺さんは壁際に貼ってあるシフト表をはぎ取った。私にそれを押し付ける。
「とりあえず、出勤日増やせ。絵の仕事がない間は、こっちで稼いどけよ」
「へ? 朱鷺さん?」
「心配すんな。仕事ってのはひとつ終わればひとつ始まる。真面目にやってる奴にはそういう風に巡って来るもんだ。だけど、その間に収入がないってのはしんどいからな」
好きなだけ入れとけ、と朱鷺さんは言った。
「あ、あの。私、こんな手だし」
「そんなこと関係ねえ。お前は出来ることやってりゃいい」
髭もじゃが、にっと笑った。
「朱鷺さ」
「朱鷺さん、かっこいい……。好き……っ」
私の声に被るようにして、背後で声がした。朱鷺さんがぶほっと噎せる。
振り返ると、けんちゃんが立っていた。私と目が合うと、にこっと笑う。
「花ちゃんの気持ち、代弁してあげたよ」
「うん、けんちゃん。勝手にアテレコするの、やめようね」
けんちゃんは、カメラマン見習いの二十三歳の男の子だ。
カメラの専門学校を出たあと、カメラを手にふらふらと日本中を徘徊していたらしい(けんちゃん曰く、朱鷺さんの下位互換だそうだ)。
そしてその徘徊中に出会った朱鷺さんの写真に一目ぼれをし、そのまま金魚草写真館に居座っている。
背はあまり高くないけれど、細身。
女の子みたいに色白で綺麗な顔立ちをしたけんちゃんは、朱鷺さんと違って子ども受けがいい。
あと、若い女の子にも。
にこにこと笑った顔はとても可愛くて、しかも甘え上手だ。
けんちゃんは私の右手を取ってそっと撫でた。
「花ちゃん、手の怪我すっごく痛そう。これじゃ日常生活も大変だね」
「今はそんなに痛まないの。でも自業自得だから、我慢するしかないね」
「僕にできることあったら、何でも言ってね。ていうか朱鷺さん、いつまで咳込んでるの」
見れば、朱鷺さんがまだゲホゲホしていた。
「もしかして本気にした? 好き……っなんて花ちゃんが言うわけないのに、馬鹿じゃん。キモ」
けんちゃんは朱鷺さんのことをものすごく尊敬しているくせに、言動は辛らつだ。
多分、ツンデレってやつ。
朱鷺さんもそんな性格を分かっているのか、けんちゃんに冷たくされても怒ったりしない。はいはい、と受け入れている。
そんな二人はまるで、仲の良い兄弟のようだ。見た目は、正反対だけど。
「びっくりしただけだ。仕事しろ。花はシフト足したら、仕事に入れ。あと三十分くらいでお客が来るぞ」
「あ、はい! ありがとうございます!」
ぺこっと頭を下げると、朱鷺さんは笑った。
私の話を聞いて、朱鷺さんは腕組みをして頷いた。
「そういう理由なら、まあ仕方ねえのかもなあ」
「仕方なくは、ないんです。みっともないことしたって、分かってるんです。自分でも」
時折半泣きになりながら、朱鷺さんに全部話したら、少しだけすっきりした。
あの時、おとなしくフテ寝に移行していれば少しはましだったのかもしれない。
はあ、とため息をついた私を見て、朱鷺さんは壁際に貼ってあるシフト表をはぎ取った。私にそれを押し付ける。
「とりあえず、出勤日増やせ。絵の仕事がない間は、こっちで稼いどけよ」
「へ? 朱鷺さん?」
「心配すんな。仕事ってのはひとつ終わればひとつ始まる。真面目にやってる奴にはそういう風に巡って来るもんだ。だけど、その間に収入がないってのはしんどいからな」
好きなだけ入れとけ、と朱鷺さんは言った。
「あ、あの。私、こんな手だし」
「そんなこと関係ねえ。お前は出来ることやってりゃいい」
髭もじゃが、にっと笑った。
「朱鷺さ」
「朱鷺さん、かっこいい……。好き……っ」
私の声に被るようにして、背後で声がした。朱鷺さんがぶほっと噎せる。
振り返ると、けんちゃんが立っていた。私と目が合うと、にこっと笑う。
「花ちゃんの気持ち、代弁してあげたよ」
「うん、けんちゃん。勝手にアテレコするの、やめようね」
けんちゃんは、カメラマン見習いの二十三歳の男の子だ。
カメラの専門学校を出たあと、カメラを手にふらふらと日本中を徘徊していたらしい(けんちゃん曰く、朱鷺さんの下位互換だそうだ)。
そしてその徘徊中に出会った朱鷺さんの写真に一目ぼれをし、そのまま金魚草写真館に居座っている。
背はあまり高くないけれど、細身。
女の子みたいに色白で綺麗な顔立ちをしたけんちゃんは、朱鷺さんと違って子ども受けがいい。
あと、若い女の子にも。
にこにこと笑った顔はとても可愛くて、しかも甘え上手だ。
けんちゃんは私の右手を取ってそっと撫でた。
「花ちゃん、手の怪我すっごく痛そう。これじゃ日常生活も大変だね」
「今はそんなに痛まないの。でも自業自得だから、我慢するしかないね」
「僕にできることあったら、何でも言ってね。ていうか朱鷺さん、いつまで咳込んでるの」
見れば、朱鷺さんがまだゲホゲホしていた。
「もしかして本気にした? 好き……っなんて花ちゃんが言うわけないのに、馬鹿じゃん。キモ」
けんちゃんは朱鷺さんのことをものすごく尊敬しているくせに、言動は辛らつだ。
多分、ツンデレってやつ。
朱鷺さんもそんな性格を分かっているのか、けんちゃんに冷たくされても怒ったりしない。はいはい、と受け入れている。
そんな二人はまるで、仲の良い兄弟のようだ。見た目は、正反対だけど。
「びっくりしただけだ。仕事しろ。花はシフト足したら、仕事に入れ。あと三十分くらいでお客が来るぞ」
「あ、はい! ありがとうございます!」
ぺこっと頭を下げると、朱鷺さんは笑った。