神様はきっともう罰しないから
リビングに行こうとして、足を止める。
姿見の前に立って、なんとなく全身チェックする。


私は、綺麗じゃない。

ごくごく普通。
体型も、顔立ちも、目立った長所はない。

田舎では可愛いって言われたりもしたけれど、都会に出てからは人並みでしかないと実感した。
お洒落で綺麗な子は、見渡せばごまんといた。
私みたいな女はすぐに埋もれてしまう。

せいぜいが、背中の中ほどまで伸ばした髪の状態がいいことくらいだろうか。
柔らかで真っ直ぐな髪は綺麗だと褒められる。
だけど、おおっぴらに自慢できるようなものでもない。


「あ。しかも、肌荒れてるって言われたんだった」


顔を覗き込む。
たしかに、荒れてるかもしれない。鼻のてっぺんの皮がむけてるし。唇も少しがさついている。
今夜は美容液をふんだんに擦りこんで眠ることにしよう。


「ここも、なー。まつエクしようかな」


短い睫毛をぐいぐい指で押し上げる。

だいたい、藍がいけないんだ。
あんなにも変わってないから。

体型がたるむとか、毛穴が広がってるとか、それくらいの劣化をしておいてよ。
私がどれだけ自分に手をかけていなかったか、分かっちゃうじゃない。

ブツブツ言っていると、「花、まだー?」と声がしてはっとする。

私、一体何をやってんだ。
別に、自分の容姿を確認する必要、ないじゃない!


「す、すぐ行く!」


馬鹿みたい、私。
かっと赤面した頬に手を当てて、深呼吸をしてから部屋を出た。


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