神様はきっともう罰しないから
私の人生のどん底というものがいつなのかと考えたら、それは正しく、今この時だと思う。
というか、この時でないとしたら、恐ろしさしかない。
これ以下があるというのならば、私は己の人生を悲観して仏門に入るしかない。
頭をすっかり丸めて、全ての欲から解脱して、仏に生涯を捧げようと思う。
とにもかくにも、私の今の状態が史上最低である、とご理解いただきたい。
それは、田舎の母から庭先のチョコレートコスモスが満開ですとメールが届いた、昼下がりのことだった。
私は部屋の窓際で暖かな初冬の日差しを浴びつつ、淹れたてのコーヒーを啜っていた。
連勤が続いていた写真屋の仕事も一息つき(七五三の記念写真ラッシュがようやく終わったのだ)、久しぶりの休日だった。
「あー、画材、買い足しに行かなきゃなあ」
私は、写真屋のアシスタントの仕事の他に、幾つか仕事を抱えている。
それは、イラストの仕事だ。
幼児雑誌の挿絵に、フリーマガジンの中のイラストがメインで、あとは不定期に仕事を頂いている。
こちらは時間を大きく採られる割に収入は微々たるものだけれど、辞められない。
絵の仕事に関わるのは、幼少期からの私の夢なのだ。
絵本作家になりたい。
正確にはそれが、私の夢。
だけれど現実は厳しくて、その夢はまだまだ叶いそうにない。
些細な仕事でも繋いでいけばきっと、と頑張ってきてもう二十七。
あと何年頑張ればいいのだろう、なんていうのは考えてはいけないことだ。
「水彩絵の具に、筆もヘタってたっけ。あーと、コピックがええと、何本だ?」
指折りながら独りごちる。
大学卒業をきっかけに田舎を出、気侭な独り暮らしを初めて五年。
元々クセだった独り言だけれど、ここ最近明らかに増えてきたのは、寂しさを覚えているからだろう。
喧嘩ばかりしていた同棲相手(元彼氏。年下の従順な浮気相手の元へと去って行った)が出て行って丁度一年になる。
出て行く背中を見送るときには清々したと思ったのに、あんなやり取りでもあっただけマシだったかもしれない、なんて馬鹿な考えがふっとよぎるのがいい証拠だ。
「猫でも飼おうかなー……」
二人で住むために借りた部屋は、私一人には広すぎる。
せめて、私の独り言を受け止めてくれる存在が欲しい。
はあ、とため息を一つ零すと同時に、テーブルに置いていたスマホが震えた。
それは、幼児雑誌の仕事の担当さんからの電話だった。来月の仕事の指示が来るころだし、と気楽に電話をとった私だったが、数分後に奈落の底に突き落とされた。
というか、この時でないとしたら、恐ろしさしかない。
これ以下があるというのならば、私は己の人生を悲観して仏門に入るしかない。
頭をすっかり丸めて、全ての欲から解脱して、仏に生涯を捧げようと思う。
とにもかくにも、私の今の状態が史上最低である、とご理解いただきたい。
それは、田舎の母から庭先のチョコレートコスモスが満開ですとメールが届いた、昼下がりのことだった。
私は部屋の窓際で暖かな初冬の日差しを浴びつつ、淹れたてのコーヒーを啜っていた。
連勤が続いていた写真屋の仕事も一息つき(七五三の記念写真ラッシュがようやく終わったのだ)、久しぶりの休日だった。
「あー、画材、買い足しに行かなきゃなあ」
私は、写真屋のアシスタントの仕事の他に、幾つか仕事を抱えている。
それは、イラストの仕事だ。
幼児雑誌の挿絵に、フリーマガジンの中のイラストがメインで、あとは不定期に仕事を頂いている。
こちらは時間を大きく採られる割に収入は微々たるものだけれど、辞められない。
絵の仕事に関わるのは、幼少期からの私の夢なのだ。
絵本作家になりたい。
正確にはそれが、私の夢。
だけれど現実は厳しくて、その夢はまだまだ叶いそうにない。
些細な仕事でも繋いでいけばきっと、と頑張ってきてもう二十七。
あと何年頑張ればいいのだろう、なんていうのは考えてはいけないことだ。
「水彩絵の具に、筆もヘタってたっけ。あーと、コピックがええと、何本だ?」
指折りながら独りごちる。
大学卒業をきっかけに田舎を出、気侭な独り暮らしを初めて五年。
元々クセだった独り言だけれど、ここ最近明らかに増えてきたのは、寂しさを覚えているからだろう。
喧嘩ばかりしていた同棲相手(元彼氏。年下の従順な浮気相手の元へと去って行った)が出て行って丁度一年になる。
出て行く背中を見送るときには清々したと思ったのに、あんなやり取りでもあっただけマシだったかもしれない、なんて馬鹿な考えがふっとよぎるのがいい証拠だ。
「猫でも飼おうかなー……」
二人で住むために借りた部屋は、私一人には広すぎる。
せめて、私の独り言を受け止めてくれる存在が欲しい。
はあ、とため息を一つ零すと同時に、テーブルに置いていたスマホが震えた。
それは、幼児雑誌の仕事の担当さんからの電話だった。来月の仕事の指示が来るころだし、と気楽に電話をとった私だったが、数分後に奈落の底に突き落とされた。