神様はきっともう罰しないから
いつの間に、藍はこんなにも家庭科能力が高くなったんだろう。

さくっと揚がった甘酸っぱいチキン南蛮を頬張りながら、私は目の前の男を窺った。
ほっくりとしたかぼちゃサラダも、さつまいもの味噌汁も、とても美味しい。
今朝の料理で料理の腕が確かだとは分かっていたけれど、それでもやっぱり驚いてしまう。
おかゆをつくろうとして土鍋を真っ二つに割った人だとは、思えない。


「美味い? 花」

「うん。すごく」


左手でのたのたと食べなくちゃいけないのが残念なくらい美味しい。


「藍、すごいね。うちのお母さんの作る物より美味しい」

「それは、どうも。あ、お茶淹れてあげるから、湯呑かして」


目の前に、逞しい腕がにゅっと現れる。
少し血管の浮いたそれの存在感に、無意識に体を引いていた。

昔より、がっしりしてる。
肩幅も、胸元も。
五年前はもう少し線が細くて、子供らしさが残っていたのに。


「はい、どうぞ」

「あ。どうも」


何だかやっぱり緊張してしまう。
こんな生活を、私は本当に一ヶ月も続けなくちゃいけないんだろうか。


「え、えっと。藍は、あれでしょ。建築士になったんだよね。お母さんから聞いた」


藍の夢は、建築士だった。
一流建築士になって、自分の理想通りの家を建てる、と小さな頃から言っていた。

そんな藍が難関と言われる大学の建築科を無事卒業して、大手の建築会社に就職した、ということくらいは、母伝手に聞いていた。
プチトマトを口に放って、藍が首を横に振る。
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