神様はきっともう罰しないから
「まだ、入り口に立てたくらいだよ。建築士なんて、おこがましくて名乗れない」

「そうなの?」

「俺の中では、一級に受かって初めて、ってところだね」

「一級ってえっと、たしか、大学を卒業しても、二年の実務を積まないと試験も受けられないんだっけ」


昔、藍から教えてもらった記憶を引っ張り出して言う。藍が私をちらりと見て、片眉をあげた。


「覚えてたんだ?」

「そりゃあ、ね」

「その通り。俺は今年の春就職したばっかだから、少なくともあと一年半は仕事しないといけない」

「そっか」

「一年浪人してるから、どうしても長く感じるよな」


ぱくりと大きなチキン南蛮を齧った藍が、何気なく言った言葉が胸に刺さる。

藍が大学を落ちたのは、私のせいだ。

フォークを持つ手を止めると、「ん?」と藍が首を傾げる。


「どした?」

「いや、別に」


紡ぎたい言葉を飲み込んで、首を横に振った。

謝罪なんて、何の意味もない。
それに、その言葉は口にするなと藍は言った。
花のせいなんかじゃないから、と。
だけど、罪悪感を覚えないわけがない。

誰よりも優秀で、成績の良かった藍。
絶対に合格すると言われていたのに。
その足を引っ張ったうえ、大切な子の心からの願いを奪って、傷つけた私。


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