神様はきっともう罰しないから
「ええと、かぼちゃのサラダ、すごく美味しいね」


話題を変えようと、無理やり声音を明るくした。これ昔から好きなんだー、と付け足して言うと、藍がふっと笑った。


「知ってる。まだ好きなら、よかった」


――知ってる。
その優しい言い方に心臓がきゅっと痛む。

どんな顔をしていいのかわからない。こんな言葉が返ってくるなんて思わなかった。
そういうこと、さらっと言わないでよ。


「あー、うん。えっと、本当に、美味しい」


曖昧に頷いた私は、とりあえずサラダを掻きこむことにした。


「それでさ、昨日はなんで昼酒してたの」

「ぶ」


不意を突かれて、サラダを吹き出しそうになった。慌てて口を押さえる私に、藍が重ねて訊く。


「なんか、あったんだろ? その問題は、解決したの?」


藍が私を見る。藍の瞳は、とても深い黒をしている。今はその色が少しだけ揺れている。心配、してくれているのだ。


「あ、えーと」


解決なんてしていない。せいぜいが、とりあえずの収入が確保されたくらいだ。


「よほどの事情がないと花がヤケ酒なんてしないだろ。何かあったなら、言えよ」

「あ、だい、じょうぶ。うん。勤め先のオーナーに相談して、事なきを得たって言うか、うん」


嘘は、言っていない。


「そうなの?」

「うん。ほんとに、問題解決」


こくこくと頷くと、藍は「ふうん」と納得がいかないように呟いたけれど、それ以上は追及してこなかった。
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