神様はきっともう罰しないから
「『みるく』のお仕事、終わり、ですか……」

「うん、そう。雑誌のリニューアルに伴って、新しい人を使って行こうってことになってさあ。
妹尾(せのお)さんのイラストは安定感と可愛らしさがあって好評だったんだけどね。ホント、ごめんね」


電話の向こうで担当さんが明るく言うのを、呆然と聞いた。


「また仕事をお願いしたいことがあったら、連絡するからさ。とにかく、長い間お疲れさまでした! じゃあね」


終始あっけらかんとした口調のまま、彼はあっさりと通話を終えた。
無機質な音を聞きながら、私はぺたんと床に座り込んだ。冷え切ったフローリングがすぐさま熱を奪いにかかる。

四年も続けてきた、幼児雑誌『みるく』の挿絵の仕事。
夢にきっと繋がっていると信じていたのに。まさかこんなにも簡単にはじき出されてしまうなんて。

手にしていたスマホの画面を見つめる。
暗転した画面の中には、情けない顔をした自分がいた。

と、画面が大学時代の先輩からの着信を知らせる。
私はのろのろと通話ボタンをタップして、耳にスマホを押し付けた。


「はい……」

「あ、花? おつかれー。調子いい?」

「いやー、微妙、ですかね。はは」


ついさっき、悪くなりました。
そんな言葉を喉の奥に押し込んで乾いた笑いを零す私に気付かずに、先輩は「あのさあ」と続ける。


「花に頼んでるイラストの仕事、あるじゃん? ウチの会社の発行してるフリーマガジン」

「はい。来月号の分でしたら、昨日メールで送りましたよ」


先輩が務めているイベント会社が毎月発行しているフリーマガジン。
その中のイラストのお仕事を頂いたのは、三年前だったか。
中高年の男性向けということだったので、最初は絵のタッチを変えるのが難しかったけれど、今では面白さを感じている。
私が絵を生業にしたいと考えていることを覚えていて、仕事を紹介してくれた先輩には感謝してもし足りないくらいだ。


「あ、修正ですか? すぐにでもとりかかりますけど」

「あーいや、その、さあ」


いつもは、はきはきとした口調の先輩が言い躊躇う。
少しだけ嫌な予感がしたのと同時に、先輩は「実は」と言った。


「その仕事で終わりなんだ。来月で休刊することが決定した」

「は……?」


心臓がぎゅっと掴まれるような痛みを覚える。
休刊ってことは、私の仕事もなくなるってことでしょう。
わずか数分間で仕事を二つも失うなんて、そんなことあるわけ?


< 3 / 23 >

この作品をシェア

pagetop