神様はきっともう罰しないから
「元々、社長の道楽でやってたようなものだったんだよね。だから広告収入があんまり見込めなくても続けられてたんだけど、社長がいい加減止めるわーって言い出して」

「そ、そんな……。気紛れにも、ほどが……」

「社長もいい年だし、引退のことを考えてるみたいなのよねー。息子にあとを任せて悠々自適に暮らしたいって、最近の口癖なんだ」


ウチの会社も、これからどんどん変わってくのかなぁ、と先輩は小さく呟いて、それから「ごめんね、花」と残念そうに言った。


「頑張ってくれてたのに、こんなことになっちゃって。またいい仕事があったら、真っ先に花に連絡するから」

「は……あ。ありがと、ございます。お願いします」


自分の声が、自分のものじゃないみたいに遠く聞こえる。
先輩は当たり障りのない共通の友人の話題を少しだけして、通話を切った。
最後に、「ほんとにごめんね」とそっと言った先輩は、私の事をいつでも心配してくれていた。

大学時代に私の絵を褒めてくれた時も、花は絶対絵でお金を稼ぐようになるよと豪語してくれたっけ。
そんなことを、スマホを握りしめながら考えて泣きそうになった。


メインの仕事を失った私がそれからしたことは、ヤケ酒だった。


「画材を買いに行く手間が省けたし! あっはは、ラッキー。あの店、遠いんだもん」


オリーブの瓶詰に、冷蔵庫の奥に仕舞ったままになっていたチーズと生ハムでワインを飲み下していく。
くっそ、この組み合わせ本当は大好きなのに、絶対トラウマメニューになってしまう。
オリーブを二度と齧れなくなってしまったらどうしよう。


「あー、やっぱ猫飼う。モフモフの癒しが必要! って、もう無いの⁉」


気付けばボトルは空っぽになっていた。


「うそ、まだ飲みたい! ビールビール……って、こないだ全部飲んじゃったんだっけ? えーやだ、何かないの」


キッチンシンクの下を探すも、アルコールは見つからない。
このままフテ寝をするか。
いや、もう少しお酒に逃げたい。


「コンビニ、行こう」


一番近くのコンビニまで、徒歩三分。ビールと、あとはポテチかな。あ、おでん食べたいかも。


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