あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】

3.突然の別れ -楓文-



早朝、まだ人通りが多い神宮内を出勤する。

神宮から支給された、白の衣に緋袴。

三月に始まった研修時は、着付けをするにも戸惑ったけれど
ようやく少しずつ早く着つけられるようになってきた。

今日も舞女としての神聖な衣を身にまとうため、
舞女潔斎所である湯殿へと、出勤早々向かう。

神聖な衣を身に着けるためには、禊が必要不可欠。


禊を終えて舞女の衣を身にまとうと心がキュっと引き締まる感じがした。


心の中にもやもやと今も引っかかるのは、清香の言葉と祥永のこと。

中学時代から、ギターを通して、UNAを通して交わり続けてきた
祥永に、別の女の影が出てくるなんて思いもしなかった私。


祥永の大学の入学式までの間の春休みも、私は神宮の研修が始まって
それどころじゃなくなってた。



「楓【ふゆ】さん。
 心が乱れていますよ。

 一心に境内を磨いて、心を落ち着けてきなさい」


舞女取締役と言う役職を持つ、
私たちに衣紋の着付け・巫女舞・神前作法などを教えてくれる存在が
早々に今の私の状況を見抜いてキツイ一言。


「有難うございます。
 作業に行って参ります」


しっかりとお辞儀をして、その場から立ち上がると
同期の何人かが私について、一緒に清掃作業に入る。


私たちが清掃している間も、先輩舞女にあたる人たちは
お守りやお札の授与の接客をしたり、神樂を申し込まれた時に
舞装束に着替えて、倭舞【やまとまい】を踊る。


三月の研修から必死に練習を続けて、ようやく舞えるようになった最初の巫女舞。

神楽殿から響いてくる、雅楽の音色を感じながら
心を清め磨くように掃除を隅から隅まで行っていく。



終わった後は、同期が勢揃いして取締役か先輩の元へと向かって
終了を告げると、取締役たちの目が、隅々まで厳しくチェックしていく。

そこで少しでもいたらない部分があれば、
床に正座して、平謝りして許しを請う。


外界とかけ離れた世界は、古から受け継がれている独特の決まりごとが
存在している。


粗相の時の謝り方、普段の食べ物、祭礼などの行事前の食べ物まで
中に入ってびっくりの、細かい決まりごとが並べられていた。


神宮内で使っているものは、外へ持ち出しすることは許されず、
足袋などが汚れてしまっても、神宮の中で装束をお焚きあげと言う名の
焼却をして貰わないといけない。

鶏や鴨を食べることは許されるけれど、四足のものは食べてはいけない。
勿論、牛や豚からとったエキスでもあるコンソメやブイヨンもいけない、
牛乳やバターなども制限される徹底ぶり。

昔はかなり厳しい制限だったけれど、今は少し時代に寄り添う形で緩くなって来ているものの
それでも行事の前では、この制限が適用される。

一年目の私たちは、昼食一つにしても「おにぎり」しか食べてはいけない。
神宮からカップの味噌汁を頂くこともあるけれど、
それすら昼食では食べることは許されず帰宅してから神様に感謝して頂く徹底ぶり。



っと入った当初は、驚きの連続だった世界にもようやく馴染み始めた。


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