あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】
そんな私の傍、別の遊具に持たれながら
ポケットから取り出した煙草をくわえて、火をつける祥永。
……アイツ、この間まで煙草も吸わなかったのに……。
アイツが吐き出す紫煙が、夜空に溶け込んでいく。
煙草を吸いながら、アイツがふと告げた。
「楓文、俺たち友達に戻らないか?
お前、仕事忙しくて俺との時間作れねぇだろ。
俺も……先週、大学で告白されたんだ。
さっき話した、新メンバー紹介してくれたの、その人なんだよ」
多分、その人が清香が目撃したその人なんだろう。
幼馴染で、ご近所でずっと一緒だった。
中学の時、アイツの家の事情でお母さんが再婚が決まって伊勢に行って
今の名字になった。
それでも高校は同じ学校で……。
腐れ縁に近かった私たちが、付き合い始めて約5年。
そんな5年間の終止符が、こんなに呆気ないものなんて……正直思いもしなかった。
「わかった。
いいよ。私も祥永との時間作れそうにないし、バンドも忙しいから。
今度、マクサで決まってるし。
わざわざ来てくれて有難う」
そう言うとブランコから飛び降りて、カフェの駐車場へと涙を堪えながら向かう。
「んじゃ、私。私も朝早いから」
祥永を置き去りにするように自転車に乗って、背を向けて移動する。
少し自転車で移動した後、自転車から降りて方向転換をして海辺の方へと出掛ける。
真っ暗な波に吸い込まれてしまいそうになる錯覚を感じながら、
ただボーっと、海を眺めつづけてた。
明日は公暇【こうか】。
お休みの日だから……、次の仕事までにはちゃんと立ち直るから。
これで良かったんだよ。
自分に言い聞かせるように、何度も何度も心の中で唱え続けてた。