あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】
「あっ、指名は出来ないからねー。
出来ても、あの姿で身内の前に出るのは嫌だよ。
ほらっ、イメージがね……」
そう言ってると、マスターが近づいてきて隣から『楓文ちゃんの舞女姿も可愛かったわよ』なんて
火に油を注ぐ。
そのままスマホを取り出して、お父さんが何時の間にか親バカて送りつけていたらしい写真を
見られることになる。
そうやって私たちがはしゃいでる間も、ステージでは次々と機材を繋げたり、
トラムの三人が、Noirの子たちが持って来てくれたドラムセットを組み上げていく。
要塞のように、最初の枠を基準に次から次へとシンバルが配置されていくのは圧巻で、
あっという間にドラムセットも完成する。
ドラムセットの完成の後は、黒薔薇やら、蝶やらの飾りをあしらう。
このドラムセットは、三バンドが合同で使わせて貰うことになってる。
「んじゃ、リハーサル順番に始めて」
今日の演奏順は、ファラーシャ、Noir、Four Roses、合同。
その順番にリハーサルも終えて、楽屋はちょっとした女子会モード。
キャバ嬢風のいろとりどりのドレスに身を包んで、髪の毛を盛っていくファラーシャのメンバー。
全員が真っ黒の衣装なのに、メンバーそれぞれが布質も雰囲気も違う装いのNoir。
そして……ちょっぴり、オリジナルのTシャツの上は、ハード系の革素材のコルセットとスカートで
演奏してる私たちFour Roses。
それぞれの準備が出来て、準備が万端になった頃には外にも人が集まって騒がしくなってきた。
「さて、今日も宜しくお願いします。
気合入れるぞー」
円陣を組んで三バンド全員で手を繋いで声を出すとスタッフさんが、
『開場します』っと知らせに来てくれてる。
予定通り始まったステージは、順調に流れて
それぞれのファンが最前列に来る形で、ファン同士が譲り合いながら
時間が流れていく。
そしてようやく、私たちのステージ。
オープニングSEが流れると、懐かしいその場所へと帰っていく。
拍手と歓声で包み込まれた私たちは、三曲を一気に演奏しおえる。
そして水分補給。
少し喉を潤した後、久しぶりのMC。
「オープニングから三曲お届けしました。
前回のライブから丸一年かな。
何せ、受験生だったから。
だけどこの場所にまた帰ってこられて、
こんなに温かく迎え入れて貰えて、本当に幸せです。
今日も、チケットソールドアウトって教えて貰って
本当に嬉しかった。
ワンマンじゃないにしろ、最初はこのメンバーでまわってても
ソールドアウトなんて程遠くて、ノルマをクリアするのがやっとで。
こうやって、一つのステップをこえられたのも応援してくれた皆のおかげだと
思っています。
それでは次の曲は、新曲をお届けしたいと思います」
碧夕がスティックを打ち鳴らして、いつものように演奏すると
そのままベース、ギターの音色を重ねていく。
新曲から残り三曲も演奏終えて、ファイナルの頃には狭い空間が、熱気に包まれて。
空調が追いついていない感じだった。
「では、ここでNoirとファラーシャを呼びたいと思います」
っと皆をステージに呼びこんで、暫くのおしゃべりタイム。
その間に、それぞれのギターやベースもアンプに繋いで準備を始める。
合同曲の三曲も、ファンが盛り上がってくれる形でいい意味で一つになれて、
そのまま手を取り合って万歳をして、その日のステージを終えた。
ファンが出た後は、後片付けをして打ち上げ。
そのエネルギーは、次の名古屋公演へと繋げて
久しぶりのFour Rosesとしての活動は大盛況で終わった。