あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】
「孝悠、どうした?
行こうか?」
父さんの声に我に帰った俺は再び、案内されるままに部屋を退室して
別の場所へと移動する。
授与所で直会【なおらい】と呼ばれるご神前にお供えされていたお神酒を杯でいただき、
木箱の中に丁寧にいれられたにはこのようにお札と神饌を手に、ゆっくりとその場所を後にした。
一度目はマクサで出逢って、二度目は、こっそりと彼女のステージを見守った。
そして三度目は……こんな形で再会して……。
不思議な縁を感じながら、そのまま神宮を後にした。
その途中、懐かしい豚捨のコロッケを購入して自宅へと向かった。
自宅の一室、孝輝の部屋へと入るとアイツの形見にもなってしまったギターを
ケースから取り出して、久しぶりに畳の上に座って壁に持たれながら、
ピックを手に爪弾きながら、オフは過ぎていった。
この時の俺は、まだこの後にも彼女との縁が広がっていくなんて思いもしなかった。