あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】


「楓文、どうしよう。お父さんがっ!!お父さんがっ」

慌てて私の部屋に飛び込んできたお母さんが、取り乱した様子で私を叩き起こす。

「もう、どうしたの?」

「楓文、お父さんが息してないの」

突然のお母さんの言葉に、慌ててベッドから飛び起きて二人の寝室へ。


寝室に駆け込んだ時には、お父さんは本当に動かなくて思わず去年の教習所の講習を思い出す。
えっと確か、傍に座って胸とお腹の動きを見るんだよね。

落ち着け、私。
思い出せ、私。


震えそうになる体を必死に押さえつけて、確認するもののやっぱり動いてないみたいに見えた。


「お母さん、救急車呼んで。
 後、公民館からAED借りてきて」

心臓マッサージを思いだしながら、お母さんに叫ぶもののお母さんは放心状態でおろおろしてるばかりで
動いてくれない。


「お母さん、時間が勝負なの。
 早く、こっちきて。私の手があるところにお母さんの手を置いて、お父さんの心臓マッサージしてて」

口早に伝えると、スマホを手に取って公民館に走りながら119番はをコールする。


「……火事ですか?救急ですか?」

すぐにコールが繋がってオペレーターの声が聞こえる。

「救急車をお願いします。
 今、父が就寝中に息をしていなくて母が心臓マッサージをしている状態です。
 私はAEDをとりに公民館に」

「場所はどちらになりますか?」


その問いに自宅の住所を告げる。
住所の反復を聞いている間に、公民館につくものの、教習の時しか見たことがない
オレンジの機械からは、警報機のような音が小さく響いている。

その途端にプチパニック。


「あっ、あの……今……」

「落ち着いてください。公民館にAEDを取りに行かれてるんですよね。
 AEDを持って、自宅へ走ってください」

「えっと、違うんです。
AED警報器みたいな音がしてて、バッテリーが切れてるみたいで。
 どうしよう」


そのまま使えないAEDの機械を持ったまま立ち尽くす私にオペレーターは
ゆっくりとするべき行動を教えてくれる。


「救急車はすでに向かっています。
 AEDも搭載してます。お母さん一人で自宅にいるんですよね。
 すぐに戻って、お母さんと心臓マッサージ交代してください。
 もうすぐですよ」


その声に電話を切って、慌ててスマホを握りしめると一気に自宅を目指して走りだした。
その途中、救急車のサイレンが近づいてくる音が聞こえる。


自宅に戻る前に、救急車に合図を送って夜中なのサイレンをとめて貰って家の前まで誘導すると
すぐに救急隊員が家の中へと入っていく。

次から次へとお父さんへの応急処置が行われる傍で、お母さんにパジャマから洋服に着替えさせる。
そして私も部屋着から着替えを済ませた。


「AEDで心臓は動きだしましたよ。
 今から救急車へ移動します」

そう言ってお父さんを乗せた担架は救急車の中へ。


「救急車には母が同乗します。
 私は車で追いかけるので病院を教えてください」

「搬送先が決まり次第、お伝えします」


暫くたった後、救急車は日赤へと向かうことを知らされた。
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