あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】
8.懐かしい着うた -孝悠-
七月に入ったある日、いつものように仕事をしていたら
ホットラインが入ってきた。
就寝時に意識を失って心停止を起こした50代の男性。
AEDにて心拍再開。
今、受けもっといる患者さんの処置の目途もたっているので、
受け入れを了承する。
次の患者さんが運ばれてくるまでに、
今の患者さんを処置室から移動させて家族に状況の説明を伝える。
そうこうしているうちに、「垂髪先生、次来ました」っと
救急車の到着を告げた。
救急車からストレッチャーをおろして処置室へと急ぐ。
救急車の中には奥さんだろうと思われる女性が同乗していた。
慌ただしい処置室内。
次から次へと指示の声が飛び交う中、
データーを次から次へと読み取って整頓していく。
モニターに映る心電図の波形も、
今は落ち着いているのが確認できた。
どの波形をとってしても、異常を感じられるものはない。
「垂髪先生、奥さんに確認しましたが健康診断で引っかかったことも、
大きな病気の既往歴もないとのことです」
突然の不整脈を起こして心停止を起こしたのか?
だとしたら、不整脈の原因を調べないといけない。
高血圧、肺、甲状腺?
だけど血圧の数値を見ても、ここが原因とは感じられない。
「先生、意識が戻りました」
「勢力さん、ここ病院ですよ。
今日はこのまま病院でお休み頂きますね」
肩をトントンと叩きながら、ゆっくりと声をかけると
小さく頷いて、そのまま眠りへと戻って行った。
「病室確保できました。病棟からすぐに迎えが来ます」
「わかった。
じゃあ、俺は家族に説明に入る。
ここに通して」
そう言うと、パソコンの電子カルテを見つめながら
キーボードで状況を記入していく。