あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】
9.急接近?UNAを知る人 -楓文-
あの後も、仕事の後お父さんのお見舞いに日赤に向かうと、
何度も院内で、先生を見かけた。
院内に入っているコンビニで、
おにぎりと野菜ジュースを手にレジに並んでる先生。
近づいて声をかけると、UNAそっくりの笑顔で笑い返して、
挨拶を返してくれる。
「先生、こんにちは。
今日もおにぎりなんですか?
医者なのに体壊しちゃいますよ。
愛妻弁当作ってくれる奥さんいないの?」
勢いに任せて、私何言ってるんだろう。
そう言う私も手に持ってるのは、炭酸のジュースとお菓子。
そしてお父さんの缶コーヒーとお茶。
「勢力さんはお父さんのお見舞いですか?」
「仕事の後だから、遅くなっちゃったけど」
「今日は一人ですか?」
「お母さんは午後からの仕事だから、朝の間に来てると思うんだ。
先生は?」
「俺も今日は終わりかな。
気になることがあって、少し残ってたんだけど。
それじゃあ、お先に」
そう言ってレジを済ませた先生は、白衣を翻しながらテクテクと歩いていく。
レジの終わった荷物をぶら下げて、エレベーターでお父さんの入院する階まで向かうと
ナースステーションで看護師さんに会釈だけして、病室へと顔を出した。
大部屋で入院してるお父さんのベッドは一番奥。
すでに晩御飯が運ばれた後みたいで、テレビを見ながら食事をしてた。
「お父さん、調子どう?」
「おぉ、楓文か……仕事の後、疲れてるだろ。
お父さん、平気だぞ。
病院は食事の量も少ないし、酒が出ないからなー。
早く帰って、晩酌したいよ」
そう言いながら笑うお父さんの体には、今もポータブルの心電図が取り付けられたまま。
「何言ってるのよ。お父さん、心停止して倒れたんだから。
徹底的に検査して原因見つけて貰ってよ。
じゃないと、お酒も煙草もダメだからね」
「おぉ、怖い怖い」
「はいっ。差し入れ。
って言っても、下の売店で買ってきた珈琲とお茶。
後、こっちは此処に来る途中に目の前の本屋で買ってきた。
お父さんが購読してる雑誌。
暇つぶしにはなるでしょ」
そう言って、週刊コミック雑誌と、釣り雑誌の入った袋を手渡す。