あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】


今年、ホント花火と縁がなくなりそう。



その後も打ちあがる、花火の音をききながら
お父さんの病室へと戻った。



「楓文、明日も早いんだろ。
 それに病院の外だと、少しくらい、花火見えるかもしれないぞ。

 昼間とお隣の人の家族が来てた時に、スーパーの駐車場で見るとか言ってた」

「ふーん。そうなんだ。
 じゃ、借りたいCDもあるからレンタル借りがてら、
 気が向いたら覗いてみるよ。

 じゃ、帰るね。
 朝が早いから、すでに眠いよ。今日も……」

「おぉ、ありがとうな。
 気をつけて運転して帰れよ」


そう言って見送る父親。

病室からエレベーターまでの僅かな道程を散歩して、
エレベーターの前で私を見送ると私はいつもの様に駐車場へと続く時間外出入り口の方へと向かった。




その途中、再び……私の視界は先生の姿を捕える。
先生は私服姿のままで、看護師さんに呼び止められたのか、何かを話しているみたいだった。 



会釈だけして隣を擦れ違ったとき、話が終わったらしく「勢力さん」っと先生の声が私を捕えた。
足音が近づいてきて、自動ドアが開いたところで肩が並ぶ。




「仕事終わったって言ってたのに、まだお仕事だったんですか?」

「仕事って言うか、勉強会って言うか。

 でももう終わった」



そんな先生との会話の際にも、花火が打ちあがるドーンという音が空間に木霊する。



「おっ、今日花火か……」

「はいっ。
 今日は宮川の花火の日です」

「懐かしいなー。
 昔、友達と宮川の河川敷で見てたら、百足【むかで】が出てきて
 大変だったんだよ」

「あっ、先生もですかっ。
 私たちも経験ありますよ。

 あれ嫌ですよね。せっかく、おめかしして浴衣来て言ってたのに百足なんて
 ムードも何もないじゃないですか」


ムードって何言ってんだろう。


確かに……祥永とキスしかけた時に、百足が出てきて邪魔されて……って
私、何思いだしてんだろ。


祥永とはもう終わったのに。
バカみたいに。




「勢力さんは今からどうするの?」

「今から、前のレンタル屋さんに行って
 それから帰ろうかなーって」

「なら一緒に行こうか?
 俺もちょっと本見に行きたくて」

「はいっ。
 でも私……車で……。先生は?」

「今日は歩き」

「じゃ、そこまで乗ってきますか?
 先生にはバレちゃってると思いますけど、機材車としても使ってるから
 ハイエースですけど」



そう言いながら車を停めてる駐車場の方へと向かうと、
そのまま鍵を開けて運転席へと乗り込む。

助手席のドアを中から開けると、
本当にいいの?っと確認して、先生は助手席へと座った。


エンジンをかけた途端に、車内に広がるのはUNAの声。

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