あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】

「ごめん。先生、着替えていい。
 家近くだからさ」

っと断わりをいれて、車を再び走らせる。

家の前に停めても、先生は我が家に入ろうとはしなくて、
そのまま一人家の中に入ると、背伸びした浴衣ではなくて、
もう一つの可愛い浴衣に着替えなおした。

先生にもファブリーズを手に戻る。

しゅっしゅっと振りかけて、匂いが落ち着いたのを確認すると
今度は駅前まで車をとめて歩いて向かう。

食後の散歩宜しく城山公園で鳥羽の景色を一望していると、
すぐ下の線路を『しまかぜ』が通過していく。

その後は再び駅前を目指して歩き出す。
赤福の駐車所では、夏限定メニューの赤福氷の出張店舗。

歩乙衣たちと待ち合わせしているこの場所に先生と向かうと、
すでに歩乙衣たちは、赤福氷をたべながらベンチで手を振った。

慌てて私も赤福氷を購入すると、その輪の中に先生を引っ張って連れて行く。

私の連ればかり集まってるから、先生とは年齢が違い過ぎて
戸惑ってる先生に、歩乙衣と碧夕が自己紹介をしてくれた。

赤福氷を食べてる最中に先生のスマホがなって、先生は何処かへ電話しに離れてしまった。



「って言うか、お前……あの人、誰だよ」

「お父さん助けてくれた先生」

「先生って……、もっと現実見ろよ」

「余計なお世話だよ。元葵」

「けどあの人、ほら……UNAに似てないか?
 お前、あの人とUNAと重ねてないか?」


UNAと重ねてないかって、元葵に言われて心がチクリと痛んだけど
それは最初だけ。
きっかけに過ぎない。

今は先生が……好きだと思うから。

「関係ないよ。元葵のバカっ」

「ほらっ、アンタもムード壊すようなこと言わないんだよ。
 デリカシーないんだから」

碧夕たちに引っ張られるように、元葵はその場所から連れて行かれる。

椅子には私と先生の赤福氷のカップ。
なくなってしまってる私のカップと違って、カップの中で暑い日差しに溶かされてる先生の赤福氷。

一人になった途端に、心細くてキョロキョロとしてた途端、
視線があったのは、今日一番会いたくなかった存在。


祥永と……今カノらしい女。

祥永は私の姿を見つけると何もなかったかのように近づいてきて、
隣の椅子に彼女を座らせた。


「俺、氷買ってくるからそこ座ってて」


そう言って祥永は赤福氷の列に並びに行ってしまう。

めちゃくちゃ気まずいんだけど。

その場から逃げ出したくなるのに、先生がまだ帰ってこないから
動くことも出来なくて。

逃げるようにスマホを見つめて、読みかけの携帯小説を開く。


「アンタが祥永の元カノでしょ。
 祥永より、バンドと仕事が大切な」


気を紛らわせようとしてたのに、空気読まない、アイツの今カノは
私の気に障ることを平気で言いだす。

だけど無視するに限る。
そのまま何も聞こえてないふりをして、スマホに集中する。


「祥永、今度は東京でLIVEするんだよ。
 私の兄貴がお膳立てしてくれた。

 アンタと別れて、祥永も清々してるんだから。
 アンタは社会人。
 
 私たちはまだまだ学生。
 自分たちの時間、たっぷりとれるし毎日楽しいよ。

 せいぜい、そのまま枯れれば?」


そのまま枯れれば?

その言葉に、沸点が超えてしまった私は勢いよく立ち上がって
今カノに手をあげようとした時、私が降るおうとした拳を祥永が受け止めた。



「お前、気が短いの変わってないよな。
 せっかく、久しぶりに逢ってゆっくり話したいって思ってたのに」


そう言いながら、今カノを守るナイト気取り。

先生戻ってきて……早く。
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